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人間の将棋も物語も終わらねぇ!

藤井聡太が現実をバグらせたことで、将棋マンガは詰んだのでは――。そんな筆者の傲慢ともいえる懸念は、どうやら杞憂だったらしい。マンガはまだまだ一筋縄ではいかない。現実とフィクションは、いつだって形勢互角なのである。

本日、第67期王位戦の第4戦を伊藤匠2冠が勝ち、2−2のタイに戻した。YouTubeのまとめで棋譜をみたら、これまた凄い将棋だったな。藤井さんが粘りを見せるかというところをスパッと切断していく、見事な一手一手だった。

ということで、近年の将棋マンガを自分なりに概観した文章が誕生しました。

メモとして残しておきます。

『龍と苺』(柳本光晴)

まず、2026年に無事に完結した『龍と苺』の話をします。

柳本光晴の作品は『響 〜小説家になる方法〜』を(多分)途中まで読んだ切りで、『龍と苺』については、ある展開が異常だと将棋ファンの間で話題になったときに読みはじめた。問題の箇所に到達して連載に追いついてからは、サンデーうぇぶりで配信を追っていた。

主人公の藍田苺のキャラクターは前作と似たような尖った人格だが、前作よりもかなり人間味のある女の子である。スクールカウンセラーの宮村に将棋を授けられる。いわゆる情操教育だろう。これが彼女はすっかりハマってしまって、怒涛の大進撃がはじまる、というのが本作前半のミソだ。

竜王戦という棋戦のシステムはよくできていて(細部は理解していないけど)、最下のトーナメントにはアマチュアが参戦でき、優勝なりすれば同期の上位のトーナメントに組み込まれる。この仕組みは『リボーンの棋士』などでも活用されているように、ドラマチックな展開にしやすい。というわけで彼女はトーナメントを勝ち上がって上位棋士をも凌いでいく。

この作家はルールの穴を突くのがうまいというか、細い糸を通すような展開を好むよね。「そ、そんな手があったか」は、まさしく将棋にもピッタリなフレーズで何度となく感心させられる。ま、しかし、『月下の棋士』(能條純一)然り、破天荒な主人公と将棋というテーマは割合と相性がいいのかもしれない。

度を越した超展開となる本作の後半(後編)は、私としては漫画界でもっとも身近なAIとの付き合い方を描いた作品ではないかとすら思っている。

AI将棋の最前線の対局を追っていると、まぁ人間には無理な手筋ばかりということは素人でもわかるのだが(興味があれば、そらさんのYouTubeがオススメ)、こいつらに藍田苺なら匹敵するんじゃないかというホラがまず上手い。むしろ前半の暴力的なまでの展開は、このための準備だったのだ。

藍田と対戦するAIは、人間に負けまいとして自我を獲得してシンギュラリティに至っていく(そんなことあるかいな)。なにかとぶっ飛んだ展開なのだが、まごうことない将棋マンガだ。

本作は、終わり方も人間らしくていい。敬遠している人には手に取ってほしい。

『リボーンの棋士』(鍋倉夫)

奨励会を離脱した主人公の作品といえば『ハチワンダイバー』(柴田ヨクサル)が有名だが、本作『リボーンの棋士』もやはり同じように、プロの壁を超えられなかった人物が主人公だ。こちらはハチワンダイバーほどの超展開ではなく、主人公の安住は竜皇戦(竜王戦にあたる)を勝ち抜いて、編入試験を目指す。

現実のプロ棋士も数が増えたり、一方で窓口の狭さの問題もあり、女性プロをどう生み出すのかの(ような)問題もあり、いろいろと大変なようだが、近年は編入試験をパスしてプロになった方が数名いる。要するに、道は簡単ではないが、奨励会の外側でもプロになりうる実力を維持、あるいは育てうる環境が整いつつある証左でもあるだろう。

本作にてそれが象徴的なのは、竜皇戦の本選に単身で乗り込んできた中学生の少年で、リアルでの対局は本番が初めてだという。将棋ウォーズ(作中の名前は忘れた)やAIとの訓練でアマ上位の実力を身につけている。

将棋の楽しさとプロへの執念、人間のいやらしさやいじらしさがマイルドにブレンドされて表現された本作は、安住の一応の目標達成をゴールにしている、のかと思いきや、そこに某6冠(2026年夏現在)をモデルとした人物にステップを阻まれて物語は終わる。それでも主人公は燃え尽きないので素晴らしいし、壁の高さを示した結末が、またよい。

手塚治虫リスペクトなのかな?

『新月の盤に』(みやびあきの)

もう内容をほとんど忘れてしまったが、不穏な将棋マンガ『しおんの王』(かとりまさる/安藤慈朗)を掲載していたのが月刊アフタヌーン。本誌で最近始まったのが『新月の盤に』だ。こちらも奨励会を離脱した少年が主人公だが、ハチワンやリボーンに比べてかなり若い。年齢制限ではなく、途中離脱なのだ。

真面目に通学することにしたら将棋部と遭遇し、そこで将棋と向かい合い直すという素直な物語で、ここまでの作風とは一線を画している。まぶしすぎる。登場する戦法などもアマチュア向けの内容になっている(と思われる)し、将棋界のひとつの風景として楽しみやすい。今後の展開に期待している。

囲碁マンガ『ヒカルの碁』と比べることが許されるなら、おそらく今後主人公は、嫉妬の対象にもなりうる新たな才能とも出会うかもしれない。

『盤上のオリオン』(新川直司)

作者の作品はだいたい読んでいるが、これまた挑戦的な作品が『盤上のオリオン』で、直近では女性棋士の誕生を描く。そういえば実写の将棋作品『MISS KING / ミス・キング』の主人公はプロになったんだろうか? 興味はあったが視聴には至っていない。

ま、いずれにせよ、将棋の女性プロ棋士の誕生をテーマにしている作品がいくつかあり、本作もそのひとつだ。本作のテーマはそれだけでもなさそうだが。

群像劇的なスタイルで、一応の主人公は奨励会から零れかけていたところを新たな出会いによって立ち直る。そこから物語が始まる。まぁなんだ、『のだめカンタービレ』の千秋とのだめのような関係性に近いところがある。

ところで、新川直司は女性キャラクターの汚言がひどくて慣れてもキツイときがあるんだけど、こりゃなんなんだろうね(ひとつ思うところはあるけど)。

もうしばらくは続きそうなので、楽しく読んでいる。

『目の前の神様』(久野田ショウ)

楽しく読んでいるさなか、やはり2026年に勢いよく完結したのが、ジャンププラスの『目の前の神様』だ。近年は、同掲載元にてこれまた異色の将棋マンガ『バンオウ-盤王-』(綿引智也/春夏冬画楽)も人気であったし、さまざまな将棋マンガがありますな。

はじめの『龍と苺』も割と現実の将棋界の人物をモデルにしていたが、本作もそう。少なくとも羽生さんっぽいひとと、6冠っぽいひとが登場し、主人公はこれらのひとらと交流を重ねながら、トップ棋士の仲間入りを果たしていく。

将棋の内容というよりも人間関係や、このゲームの奥深さ、恐ろしさ、面白さにフィーチャーしている。ただその分、残念ながらといっていいのか、神様たちと対峙したあたりで本作の目的はほぼ達成されたと思われる。

終わりを惜しむ気持ちもあるが、見事な完結であった。

『ピース イン ハンド』(聖千秋)

『スパデート』で圧倒的にユニークな筆致をみせた聖千秋が次回作、なんと将棋マンガだった。『ピース イン ハンド』とは、どういう意味なんだろうか。似たようなマンガがあったなと記憶していたが、これは南Q太『ひらけ駒!』だね。此方についても内容をほぼ忘れてしまっているけれど。

本作は、叔母と甥っ子のコンビが主人公で、甥っ子が将棋にハマっていくようでハマっていかないバランスだが(ここにリアリティを感じる)、そこから徐々にまともな人間関係を築いていき、ゲームセンスのない叔母も流されるようにその関係性に巻き込まれていく。

イケメン将棋関係者らとのロマンスもあるんだか無いんだかの展開にヤキモキさせられて心から気持ちいいです。ありがとうございます。

私が把握している限り、現行での将棋マンガのなかでは、甥っ子くんが最年少主人公じゃないかな? というわけで、将棋メインというよりは将棋を介した2人の生活と人間模様がメインではある。とはいえ、その推進剤は将棋に他ならない。

はやく続きを読ませてください。ありがとうございます。

その他の作品とか現実との関連性とか

主人公が記憶喪失の将棋マンガは何だったかなと思ったら、松本渚『盤上の詰みと罰』であった。これもフワッとした作風だったが、印象に残るおもしろがあったと記憶している。同作者は『将棋めし』『盤記者!』と将棋を題材にしているみたいだが(未読です)、どんだけ将棋が好きなんだろうね。

『永世乙女の戦い方』もあったな、そういえば(未読です)。くずしろも多作な作家なので、どの作品が完結していて、完結していないのか判断しづらい。しかし、どれも一定以上に面白いので本作も面白いんでしょうな。

最後に、羽海野チカの『3月のライオン』は連載が滞りがちのなかで、藤井聡太の登場があった。ちなみに、ライトノベルの『りゅうおうのおしごと!』は絶好調の時期だったように記憶している(『3月のライオン』は完結が宣言されたのか)。

これだけ強い棋士が登場してしまうと、大谷翔平じゃないが、現実がマンガを凌駕しちゃって、フィクション性やらなんやら大変だろうなと当時の私は思ったものだったが、それがどうだ。今回メインで並べた作品の具体的な発表年はリサーチしていないが、おそらくすべて藤井聡太の登場後である。

私は地味にこの事実、これらの作品の登場に感動して、ずっと誰かとこれを共感したかったのだが、今回で何となくそれが本文となった。如何にバカげた現実が聳え立とうと、人間の想像力や物語の切り口なんて無限にあるんだなと。

この熱量をくれた『龍と苺』、およびさまざまな作品に感謝したい。ま、しかし『龍と苺』の読者コメントにあった「形勢を判断してるAIこそ最強じゃね?」という旨のコメントのインパクトが忘れられないことも添えておきたい。

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